恋愛工学は非モテの自己肯定と復讐の夢を見るか

恋愛工学は非モテの自己肯定と復讐の夢を見るか

 

有象無象たる恋愛工学論評の焼き増し同然なのは承知の上で、今回は拙いテキストを書き並べさせていただく。正誤は知らんし責は負わない。

 

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『恋愛工学は復讐』という、古くからの有識者の言説があります。私はこの論に懐疑的でした。ぶっちゃけ言えば、単に意味がよくわからなかっただけです。

 

そしてある時、私はSNSである男を知りました。その男はプロフィールに『女が憎い』とド直球に記載しており、ポスト内容から考えても彼は俗に言うインセル*1やミソジニー*2に該当する人種であることは明らかでした。口を開けば女性への憎悪が飛び出し、それが四六時中という状態でした。そこまで行くともはやパラノイアです。

 

異性に対してここまで素直に憎悪をむき出しにする人は個人的に物珍しかったので、炎上や論争などの期待を込めつつ私はオモチャ感覚で彼をウォッチしていました。肯定も批判もせずただ遠くから見ていました。直接的に言葉を交わしたことはありません。

 

世の中には、異性に対する欲求不満を政治的に正しい社会的批判という形で昇華したがる人種がいますが、輩徒のように大義名分や欺瞞を持ち出さず、ありのままの憎悪を吐き出す彼は個人的に興味深かったのです。ありのまま至上主義者のアナと雪の女王もこれにはビックリ。

 

 

アプローチ変更

そしてある日、彼は突如豹変しました。

 

何に?

 

彼は恋愛市場のライターになりました。ついでに言えば前のアカウントは闇に葬っていました。

 

そこで彼は何を始めたかと言うと、恋愛および婚活市場における女性の不合理な動きを政治的な正しさから逸脱しない範囲で批判し始め、また男性側に対して恋愛工学的なメソッドを説くようになりました。

 

つまりは彼は、異性に対するド直球のヘイトを社会的倫理から逸脱していない(正しいとは言ってない)形にコンバートし、周囲からの批判を免れるどころか肯定される形で出力することに成功したわけです。某ジェンダー思想家がやっているメソッドと瓜二つですね。

 

それを目の当たりにしたとき、ようやく私はあの言葉の意味を理解しました。

 

『こいつ...復讐している...!!』

 

 

ロマンティック・ラブに架かる橋

恋愛工学を用いる人というのは、概して自然体で女性を落とせないタイプの男性───端的に言えば非モテなわけですが、なぜ非モテの一部が恋愛工学に行きつくのかと言えば、非モテは容姿や素の人格的な問題により、通常の恋愛メソッド(純愛 / ロマンティック・ラブ)で異性との交際関係に持ち込むことが困難を極めるため、ナンパ術を理系的に体系化した非モテコミットの恋愛工学が攻略本として好まれます。

 

恋愛工学とは、相手に気に入られるために効率化された、進化心理学織り込みの高性能マニュアルで、最短ルートで好感度を稼ぎ、そして手短に肉体関係へありつくための、いわば勝利へのロードマップです。

 

この恋愛工学が批判される理由の一つ...というか大部分に、『女性を内面のある人として扱っていない』というものがあります。まさにここが復讐たる由縁です。

 

これは完全に主観丸出しなのですが、邪悪な恋愛工学に手を染めた非モテ男性とて、端からそれに着目していたわけではなく、恋愛競争で敗北を喫するまでは一般的な男性と同様のロマンティック・ラブイデオロギーを内面化させていたでしょうし、純愛の情から慕う異性へとアプローチに出たこともあるはずです。

 

ところが、非モテは非モテだけあって異性に受容されることがなく、悲しいかな、真摯な気持ちを示せば示すほど迷惑や気持ち悪い扱いを受けるケースが多い上に、あまつさえ彼女らは不誠実なチャラ男を好むという絶望的な光景を目の当たりにします。

 

自分の好きな女性の純潔がどこぞの軽佻浮薄な好色家に散らされる展開...NTRかな?

 

冗談はさておき、自分はこんなにも真面目に相手のことを思いやっているというのに、あろうことかそれを気持ち悪がり、完膚なきまでに無碍にし、しかもこれまた女性の内面を無視した下心丸出しの色狼には喜んで付いていくという不条理感、そして不快感。

 

『一途な人が好き』と公言しつつも、いざ真摯にアプローチをかけると拒絶するくせに、心にも無いおだて文句を並べ立てる陽キャに気をよくしてお持ち帰りされるあの子。

 

インセル的な性質を持つ人は、根源的に上記に関するヘイトを抱えている人が非常に多く、アメリカのインセルを見ていても『チャド*3に尻尾を振るステイシー🤬*4』と同様の反応を見せています。

 

実際問題、女性の進化心理学的にも、魅力的だと感じられない弱い男性は真面目に恋愛(求愛)すればするほど気持ち悪く映るという重大なバグを抱えていて、だからこそ陽キャ指向なパーリーピーポーは適度な軽さを演出しつつ女性にアプローチをかけていますし、陽キャに限らず大抵の男性は実際以上に自分を軽く(不誠実に)見せるというテクを無意識化で実演している節があると私は思っていて、この不誠実な振る舞いこそが真面目君にとっては非常に難しいんですよね。

 

モテを拾うために真面目な性根の自分を押し殺し、見た目も振る舞いも適度なチャラらさを演出しなければならないわけです。こうした自己欺瞞や偽装は慣れてしまえば良いだけの話ですが、生まれついての体質的な内向人間にとっては心理的負荷が大きいのもまた事実です。

 

 

そして、こうした人たちを救済するためのノウハウこそが "恋愛工学" であり、まさにロマンティック・ラブに絶望した人たちが見せる反逆です。これはある種のバックラッシュと呼べるかもしれません。

 

『あいつらは純愛しようとしても拒絶するじゃねえか。心で恋愛を楽しむことはできない。だったらおだてて口説き落として人扱いせず身体だけ好きにさせてもらう。そのために恋愛工学を使って篭絡してやる』

 

恋愛工学批判では、しばしば『恋愛工学はミソジニー』と評されていますが、概ね間違ってはいないと私も思います。自分の純愛を拒絶した異性を見返し、尊厳を蹂躙するために用いられている側面はありますからね。もちろんそれだけはありませんが。

 

 

世間には勘違いしている人がおられますが、恋愛工学の目的は女性からの承認および幸福ではありません。むしろそうした側面は皆無でしょう。

 

 

自己肯定感とホモソのための篭絡

男性にとって何が辛いかって、社会には『性交渉経験に乏しく、彼女や配偶者のいない男はダサい。情けない。経験のない男は男として致命的な欠陥がある』というジェンダーバイアスが存在しているため、ロマンティック・ラブの世界で非モテに甘んじている男性は常に心理的な抑圧を受けています。

 

ピンと来ない女性の方に向けて説明すると、女性には『出産せずに子を持たない女性はプークスクス』といったようなウザい刷り込みと抑圧があるわけで、そうした世界における子無し女性は自分の価値を自問したり他人から揶揄されて鬱屈とした気持ちになりますよね。まさにあんな感じで、男性側には『女性をモノにできない男性は無価値』という抑圧があります。

 

あぁ自分は負け組か、あぶれオスか、ダメ人間か、人間失格か、と。

 

したがって、モテない男性は常に劣等感に苛まれますし、また性欲も十分に解消できず、性的欲求が歪む人も少なくありません。同年代に否定された心の傷を理由に、後天的にロリータ分野へ逃げる人もいます。

 

こうした劣等感や性欲解消の面からも女性をモノ扱いする恋愛工学が用いられ、女性をモノにできる自分───男として欠陥ではない自分を己自身に証明するため、いわば実績解除(アチーブメント)のために女性を作業的に篭絡しようと試み、これまで自分にノーを突き付けてきた女性を支配し蹂躙することに喜びを感じます。

 

また、自分自身に証明するのはもちろんのこと、交際経験や性交渉のエピソードが蓄積していけば、ホモソーシャルにおいても話の引き出しや自慢の種が増え、異性経験に関する劣等感に苛まれるどころかその経験豊富さを誇ることさえ可能となりますし、ひいてはヒエラルキー向上も見込めます。言うなれば、プレイステーションのトロフィー機能のようなものです。

 

と考えると、フェミニストが批判する "トロフィーワイフ" とは言い得て妙ですね。よく思い付くもんだ。

 

 

余談として、異性経験を誇りつつ同性に陰キャ煽りをかましている人の中には、この手の脱・非モテに成功した恋愛工学徒が混じっているかもしれません。

 

 

恋愛工学の犠牲者を減らすために

恋愛工学は運用する側もされる側も等しく犠牲者(Victim)です。

 

使用者は社会的な抑圧と自身の劣等感から逃れるために、また復讐のために自らを偽り、恋愛工学を駆使しては根源的な心のつながり得られていない空虚感に苛まれ、そして使われる側は人格を顧みられることなく、欲求解消のためのモノとして扱われ、そこで堕胎やシングルマザーの悲劇が生まれる。

 

こうした人格度外視のヤリ捨てやミソジニー的思想を少しでも廃したいのであれば、『男たるもの彼女がいて当たり前。いない男はまさしく劣等』といった刷り込みを社会全体として弱めていく必要があると思うのですが、これを読んでいる奥さんは如何お考えでしょうか。マッチョイズムの押し付けがミソジニーを生み出している側面は否定できないと思いますし、女性側ばかりが持ち出す "累世的な抑圧経験" は男性側にもありますよ。単に見えてないだけでね。

 

とは言え、こう言われて納得する人などいないでしょうし、女性側からすれば『男性側の抑圧など知ったこっちゃないし、社会は社会的弱者である女性の抑圧に寄り添え』と自分サイドの要求を引き合いに出すでしょうから、この話は一向に進展しないでしょう。なのでこの先も現実は変わりません。誰もが自分の利を優先して譲歩しないからです。

 

いやそれどころか、この先到来するであろう経済難社会における自由恋愛市場の縮小および寡占を鑑みるに、今後ますます非モテの男性が増えていくことはまず間違いありませんから、彼らはミグタウ(MGTOW*5 )として恋愛競争から完全に降り、某有名学者が言うように『モテない男にはマスターベーションしながら死んでいただく』か、あるいは恋愛工学を駆使して機械的に女性を攻略するかの二択を迫られることになる可能性は大いにあり得ます。

 

しかし最近は、恋愛工学のノウハウを提供するYouTuberやナンパ師が炎上したり、チョロい女性の特徴を取り上げたメディアが抗議によって取り下げられてしまったりと、女性をモノ化する恋愛工学自体がポリコレ的な潮流によって政治的に正しくないものと見做され始めているため、将来的には表社会から恋愛工学が抹消されてしまうやもしれません。

 

恋愛工学は意図した通りの結果を齎してくれやすい魔法のツールなのでしょうが、ただし政治的には正しくないということで、『学術的理論は正しいけど存在は正しくない』という愉快な存在となっています。

 

恋愛工学はダークテキストの憂き目を見るか。アヴェンジャー・恋愛工学が有害図書の禁書指定になる日は、そう遠くないのかもしれない。

 

*1:女性を憎悪する非モテ

*2:女性蔑視

*3:アメリカのパリピ男の俗称

*4:アメリカのパリピ女の俗称

*5:恋愛を完全に諦めて趣味の道に生きる層